2023年8月21日厚生労働省の薬事審議会は、早期および軽度のアルツハイマー病患者に対する治療薬レカネマブを治療薬として承認しました。アルツハイマー病の原因の一つとして、異常たんぱく質「アミロイドベータ(Aβ)」の蓄積が原因と考えられています。レカネマブは、この異常たんぱくを除去することを目的として開発されたお薬です。日本企業の「エーザイ」とアメリカの「バイオジェン」が共同で開発を進めてきた薬剤です。アメリカでは、1月に迅速承認され、7月には正式承認され臨床使用が開始されています。(2023年9月10日時点の情報です)

レカネマブ投与の前提条件

レカネマブ投与の前提条件として、βアミロイドの脳組織への沈着を正確に評価することが治療開始前の必須条件となります。βアミロイドの沈着を画像または生化学的手法を用いて評価しますが、現状では、いづれの方法も保険適応されておりません。また、いずれの検査も現状では限られた医療機関のみでしか施行できません。今後、この治療前の検査条件がどの様になるのか?注意が必要です。

・アミロイドPET 
現在国内で検査できる施設は、約60施設ほどです。現状では、保険適応なく非常に高価な検査です。

・脳脊髄液のAβ42/40比 
髄液を採取して、髄液中のAβを測定する方法です。脳脊髄液中のAβ42はアルツハイマー型認知症で低下することが知られており、脳脊髄液中のAβ42/40比が、アミロイドPET検査によるアミロイド蓄積量と強い相関を示すことが報告されています。

レカネマブの治験成績は? 

「エーザイ」の報告では、1年半後の認知機能の低下が27%抑制されると報告されています。第3相試験(最終確認の試験)では、1795名を対象にして、レカネマブ群898名と偽薬群897名に分け、18カ月間の効果が検証されています。臨床症状の評価はClinical Dementia Rating-Sum of Box (CDR-SB:記憶、 見当式、 判断力問題解決、社会適応、 家庭状況・趣味・関心、 介護状況について、 健康 (0点)、 疑い (0.5点)、 軽度 (1点)、 中等度 (2点)、 重度 (3点) の5種類のスコアから評価します。点数が低いほど、認知症状は軽いことを示します)にて評価されています 。18カ月間の経過観察にてCDR-CSの点数がどの程度増加したかを評価していますが、偽薬群では1.66増加に対して投与群では1.21増加と、投与群の悪化が有意に少ないとの結果です(変化量が投与群で27%少ないという結果)。アルツハイマー病の原因に作用する疾患修飾薬という点では画期的ですが、注意しなければならないのは、効果は限定的で、認知機能を改善させるものではない、進行を止めるものではない、あくまでも進行を遅らせる薬であるとの認識です。

レカネマブの副作用は? アミロイド関連画像異常(ARIA:Amyloid-related imaging abnormalities)とは

沈着したアミロイドを取り除くことには、デメリットも予測されます。Aβ除去をターゲットとした治療の開発は以前から積極的に行われています。1999年に行われたAβワクチン治療では、βアミロイドを取り除くことには成功しておりますが、脳に炎症が起こり、死亡例も出たため、開発は中断されています。また、Aβは血管壁にも沈着します(アミロイド・アンギオパチー)。レカネマブの治験では、この血管壁に沈着したアミロイドを取り除くことにより、壁が脆くなり、脳のむくみ(浮腫)や微小出血が生じることが明らかとなっています(アミロイド関連画像異常と言います)。上述の第3相試験では、脳のむくみが12.6%に、微小出血が17.3%に出現したと報告されています。

今後の動向

・現状では、治療前検査の条件も確定しておらず、レカネマブの投与が急速に広まるとは考えにくいです。また、費用対効果の点、副作用の点からも、現状では何とも言い難い状態です。

・当面は、先行治療が開始されているアメリカのでの動向を注視するに限ると思います。アメリカでの大規模Studyの結果も近日中に報告されると思います。