加齢に伴う物忘れと認知症
ICD-10による認知症の定義は「通常,慢性あるいは進行性の脳疾患によって生じ,記憶,思考,見当識,理解,計算,学習,言語,判断など多数の高次脳機能障害からなる 症候群」とされております。なかなか難し言葉ではありますが、最も重要なことは、「緩徐にではあるが、確実に知的機能が低下する」点にあります。もともと100点を取る能力のある方が、2年後に70点しか取れなくなった場合と、もともと70点の方が、2年後も70点であった場合、同じ合格点の70点でも、その意味合いは大きく異なります。もちろん加齢に伴い、認知機能は低下してきます。加齢によるもの忘れと認知症によるもの忘れの違いの区別ができればよいのですが、現実にはなかなか難しいところがあります。
加齢による物忘れ | 認知症による物忘れ | |
体験したこと | 一部を忘れる | すべてを忘れる |
学習能力 | 維持される | 新しいことを覚えられない |
物忘れの自覚 | ある | なし |
探し物に対して | 努力して見つけられる | いつも探し物をしている ものとられ症状など |
日常生活への支障 | なし | あり |
症状の進行 | 極めて緩徐にしか進行しない | 進行する |
認知症の種類
認知症の原因には多種多様な疾患が存在します。その中には、治療可能な認知症も存在します。この様な認知症を見逃さず、適切な治療を行えば、かなりの確率で改善が望めます。改善困難な認知症には、アルツハイマー型認知症とその類縁の神経変性疾患が多数含まれています。それぞれ疾患に特異的な検査方法はなく、疾患の特徴的症状から鑑別診断を行いますが、臨床診断のみで、確定するにはなかなか難しい所があります。
改善困難な認知症 | 治療できる認知症 |
アルツハイマー型認知症 | 正常圧水頭症 |
前頭側頭型認知症 | 慢性硬膜下血腫 |
レビー小体型認知症 | ビタミン欠乏症 |
進行性核上性麻痺 | 内分泌疾患(甲状腺機能低下症など) |
大脳皮質基底核変性症 | 神経感染症 |
嗜銀顆粒性(しぎんかりゅうせい)認知症 | 自己免疫疾患(多発性硬化症など) |
神経原線維変化型認知症 | 薬剤性 |
血管性認知症 | うつ病 |
早期発見早期治療の必要性
残念ながら、アルツハイマー病などの認知症を根本的に治す様な治療法は、確立されておりません。現状では、進行を遅らせることを目標に医療や福祉・介護サービスなどが実施されております。認知症が進行してしまった後では、その効果も期待できません。進行を遅らせる為にも、また、患者さんとその家族が安心して有意義に暮らせる様に生活環境を整える為にも、早期に診断して、早期に医療・福祉介入することが、非常に大切なこととなります。